インドの人々の間では“アーユルヴェーダの医師はマリヤーリー（ケララの人）”と言われているほど、ケララ州がアーユルヴェーダの中心地です。 １９９０年代以降、欧米でアーユルヴェーダが中国医学と並んで代替医療の 中心的存在になり、ケララには年間を通してインド各地そしてアメリカ・ヨーロッパからも多くの人が治療に訪れるようになりました。 またアーユルヴェーダが普及されている隣国スリランカからも難治性疾患の 治療でケララ州のアーユルヴェーダを受けるために渡印しています。

アーユルヴェーダの治療で重要なことは、症状に合わせた治療法を組み立て、 適した薬剤を処方することです。
ケララ州にはこの薬剤の原料となる植物のほとんどが自生しています。 植物には品質の優劣がある為、ケララの豊かな土壌で生育した植物を求め、欧米の 製薬メーカーなどが調査、研究、買い付けに訪れています。 最近アーユルヴェーダが有名になったため、植物類の価格が高騰し不足気味になる 事もあり、それに伴い治療費も上がり、地元の人達に影響を及ぼしています。 本来アーユルヴェーダとは、アーユルヴェーダ医師の家系に何百年も受け継がれた 伝統の治療法で、診察方法や治療方法、植物の処方は厳格に秘密とされてきました。 アーユルヴェーダの専門の大学では、これらの伝承家系のノウハウや古典などから 教育システムを組み立てていますが、大学が整備され始めたのも最近の事なので まだ歴史がそれほど長くないためか、薬剤処方などに深みが無いのが実状です。 アーユルヴェーダの大学で古典などに記された一般的な処方を学び、医師資格を 取得することは出来ますが、優れた医師になる為には多くの経験を積む事と 伝承家系の処方を学ぶ事だと言われています。 トリヴァンドラム周辺には数百年前からの伝承家系の医師や薬品の専門家や ケララの武道「カラリパヤット」から生まれたマルマ療法の治療家がいます。

治療目的でケララを訪れる外国人の中で、アーユルヴェーダに詳しい人は、
このように医師に質問します。　「あなたは自分で薬品を作っていますか？」　

マリヤリー（ケララ人）がアーユルヴェーダ医師の優劣を見分ける判断基準と同じです。 ここ数年でトリヴァンドラム周辺に多くのアーユルヴェーダ・リゾートが建設され、 老舗リゾートではハイシーズン中の予約は１年前でも難しいほど繁盛しています。 長期滞在（３週間程度）をする宿泊客は皆さん治療を目的にされていますが、 症状の改善は、あまり期待できないようです。
著名な自然療法家アンドルー・ワイル氏も著書「癒す心、治る力」（角川文庫）の中で述べています。 「インド国内でも優れたアーユルヴェーダ医と出会う事は難しい、優れた医師を見つけるには、インド人社会の中で評判の良い医師を見つけることである。」　
ビジネス中心、リラクゼーションやマッサージとしてのアーユルヴェーダとは違った 実力のある医師を見つけられる可能性があります。
優れたアーユルヴェーダ医は多くの患者のホームドクターであり、村の相談役も 兼ねるほどの人格者でもあります。治療の実力、人格、その二つを備えている医師を アーユルヴェーダではVaidyaと呼びます。